Resources / 用語集

神経科学用語集

SRFを学ぶうえで前提となる基礎神経科学の用語を、初めての方向けにまとめました。定義は、ヒトで確立した機能神経解剖(Tier1-2)にもとづき、出典を明記しています。各語には「SRFでは」として、SRFにおける位置づけ(統合的な解釈=Tier3)を、確立した事実と区別して添えています。

〔確定〕=巻号頁まで確認した出典 / Tier1-2=ヒトで確立した機序 / Tier3=SRFによる統合的解釈

グループ1:脅威の評価と防御

扁桃体 / Amygdala(へんとうたい)

側頭葉の内側にある神経核の集まり。入力された感覚情報に「自分にとってどれだけ重要か・脅威になりうるか」という顕著性(salience)の値づけを素早く行い、その出力を中脳PAGや視床下部へ送って、身体の防御的な構え(すくみ・回避・自律神経反応)を立ち上げる起点になる。「恐怖の中枢」と呼ばれることがあるが、実際は報酬・注意・学習にも広く関わり、価値と脅威関連性の評価装置と捉えるのが正確。

SRFでは〔解釈〕

扁桃体-PAG出力を、身体が「今は守るべきか」を決める安全判定の一次評価とみなす。"恐怖中枢"としては扱わない。

出典:Janak PH, Tye KM. Nature. 2015;517(7534):284–292.〔確定〕/ Kandel『Principles of Neural Science』6th ed(2021)情動の章.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)

PAG / 中脳水道周囲灰白質(Periaqueductal Gray)

中脳の中心、脳内を通る細い管(中脳水道)を取り囲む灰白質。扁桃体や視床下部からの入力を受け、脅威に対する防御反応(すくむ・逃げる・闘う)のパターンを組織する。同時に、脊髄へ下る経路で痛みの伝わりやすさを増減させる下行性疼痛調節の中核でもある(痛みは末梢入力だけで決まらない)。

SRFでは〔解釈〕

扁桃体の安全判定を、実際の防御反応と痛みの通しやすさへ変換する出力段と位置づける。「安全」が届くと防御が下がり、痛みの閾値も動きうると捉える。

出典:StatPearls "Neuroanatomy, Periaqueductal Gray"(NCBI Bookshelf, NBK554391)〔確定〕/ Kandel 6th ed(2021)痛みの章.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)

グループ2:覚醒とストレス

青斑核 / LC(せいはんかく、Locus Coeruleus)

橋(脳幹)にある小さな神経核で、前脳へノルアドレナリンを送るほぼ唯一の供給源。覚醒・注意・警戒のレベルを上げ下げし、「今は集中・警戒すべき状況か」に応じて脳全体の感度を切り替える。ストレスや顕著な刺激で活動が上がる。

SRFでは〔解釈〕

覚醒・警戒の底上げを担う系として、扁桃体-PAGやHPA軸とともに身体の防御的な構えを支える背景と位置づける。過覚醒が続く状態を、安全判定が「危険」に張り付いた一側面として読む。

出典:Sara SJ. Nat Rev Neurosci. 2009;10(3):211–223.〔確定〕/ Kandel 6th ed(2021)覚醒・注意の章.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)

HPA軸 / 視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)

ストレスに反応して働くホルモンの連鎖経路。視床下部(CRH)→下垂体(ACTH)→副腎皮質(コルチゾール)の順に信号が伝わり、身体をストレスに対応させる。数秒で立ち上がる自律神経反応より遅く、分〜時間の単位で働く"遅い"ストレス系。慢性的な過活動は多くの不調に関わる。

SRFでは〔解釈〕

即応的な自律神経反応(LC・扁桃体-PAG)に対し、より持続的な負荷を担う系と位置づける。安全判定が「危険」に留まり続ける状態の、長い時間軸での現れとして読む。

出典:Ulrich-Lai YM, Herman JP. Nat Rev Neurosci. 2009;10(6):397–409.〔確定〕/ Kandel 6th ed(2021)情動・ストレスの章.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)

グループ3:身体からの入力(内受容)

孤束核 / NTS(こそくかく、Nucleus Tractus Solitarius)

延髄にある、内臓感覚が脳へ入る最初の中継核。血圧を感じる圧受容器や、心臓・肺・消化管からの迷走神経を介した情報がここに集まり、疑核・視床下部・PAG等へ配られて、心拍・呼吸・血圧の自動調整(自律神経反射)の土台になる。呼吸に合わせ心拍がゆらぐ現象(呼吸性洞性不整脈, RSA)も、この経路(NTS-疑核)で作られる。

SRFでは〔解釈〕

自律神経の状態を、ポリヴェーガル理論ではなく LC/HPA・NTS-疑核-RSA・扁桃体-PAG の回路で記述する。心拍変動(HRV)は「迷走神経緊張」ではなく心臓迷走神経変調の指標として扱う。

出典:Ulrich-Lai YM, Herman JP. Nat Rev Neurosci. 2009;10(6):397–409.〔確定〕/ Kandel 6th ed(2021)自律神経系の章.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)

島皮質 / Insula(とうひしつ)

大脳外側溝の奥に隠れた皮質。心拍・呼吸・内臓感覚・体温・痛み・触れられた感じなど、身体内部の状態(内受容, interoception)を統合し、「今、身体はどんな状態か」という感覚を作る。この身体状態の把握が、情動や"なんとなくの感じ"の土台になると考えられている。

SRFでは〔解釈〕

安全判定の材料となる"身体の今の状態"を読む器官と位置づける。クライアントが感じる安心/違和感の身体的な下地として扱う。

出典:Craig AD. Nat Rev Neurosci. 2002;3:655–666.〔確定〕/ Craig AD. Nat Rev Neurosci. 2009;10(1):59–70.〔確定〕/ Kandel 6th ed(2021)内受容の章.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)

CT線維 / C触覚線維(C-tactile afferents)

有毛皮膚(手のひら・足裏を除く、毛のある皮膚)に分布する、伝導の遅い無髄の感覚線維。速い触覚線維が「何が・どこに触れたか」を伝えるのに対し、CT線維はゆっくり優しく撫でる刺激に最もよく応じ、その情報を主に後部島皮質へ送る。「心地よさ」を伴う情動的な触覚(affective touch)の担い手とされる。

SRFでは〔解釈〕

手当てや支持的な接触が、単なる力学的刺激でなく、島皮質を介した"安全の感覚入力"になりうる経路として位置づける。徒手的な関わりの一部をこの観点で捉える。

出典:McGlone F, Wessberg J, Olausson H. Neuron. 2014;82(4):737–755.〔確定〕/ Löken LS ほか. Nat Neurosci. 2009;12(5):547–548.〔確定〕/ Olausson H ほか. Nat Neurosci. 2002;5:900–904.〔確定〕.

Tier:1-2(定義)/ 3(SRFでの位置づけ)